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名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)10号 判決 1999年5月17日

愛知県西加茂郡藤岡町大字西中山字辻貝戸一一五番地一

原告

豊菱生コンクリート株式会社

右代表者代表取締役

新木正夫

右訴訟代理人弁護士

服部優

齋藤重也

愛知県豊田市常盤町一丁目一〇五番地三

被告

豊田税務署長 田家昭次

右指定代理人

渡邉元尋

堀悟

柳原国良

小林孝生

主文

一  本件訴えのうち、平成三年一一月五日付け過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分の取消しを求める訴え並びに平成三年三月二九日付け重加算税の賦課決定処分(ただし、平成三年一一月五日付けで変更決定されたもの)の取消しを求める訴えをいずれも却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

(主位的請求)

被告が原告に対して平成三年一一月五日付けで行った平成元年一〇月一日から同二年九月三〇日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち、所得金額五四八五万七一八四円、納付すべき税額一九八〇万一三〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。

(予備的請求)

被告が原告に対して平成三年一一月五日付けで行った平成元年一〇月一日から同二年九月三〇日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち、所得金額五四八五万七一八四円、納付すべき税額一九八〇万一三〇〇円を超える部分並びに被告が原告に対して平成三年三月二九日付けで行った過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分及びこれに対する平成三年一一月五日付けで行った変更決定を取り消す。

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない事実等

1  当事者等

(一) 原告は、生コンクリートの製造販売を業とする株式会社であり、原告の代表取締役である新木正夫の妻である新木鈴子(以下「新木鈴子」という。)が取締役をしている。

(二) 原告は、代表取締役である新木正夫及び同人の親族がその発行済株式のすべてを保有する法人税法二条一〇号に規定する同族会社である。

(三) 平成六年七月一〇日、豊田税務署の新設に伴う税務署の管轄区域の変更により、原処分庁は、岡崎税務署長から被告である豊田税務署長に変更された。

2  本件賃貸借契約

(一) 新木鈴子は、原告に対し、昭和五六年一月五日、原告所在地に所在する新木鈴子所有の生コンクリート製造設備一式(以下「本件設備」という。)を賃料月額二〇〇万円(以下「本件賃借料」という。)、賃貸期間を一年間と定めて貸し付けた(以下「本件賃貸借契約」という)。

(二) 本件賃貸借契約は更新され、現在に至っているが、原告は、新木鈴子に対し、右契約締結日以降、本件賃借料として、毎月二〇〇万円を支払っていた。

(三) 本件賃貸借契約の対象である本件設備の内容は、バッチャープラント設備であり、全自動方式のミキサー(日工社製強制撹拌方式)一五〇〇リットル一基及び貯蔵ビン他プラントに付帯する一切の物件である(甲一一及び一三添付の「プラント設備賃貸借契約書」)。

3  課税の経緯

(一) 原告は、岡崎税務署長に対し、平成二年一一月三〇日、平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、所得金額を四四二二万九四四九円(以下「当初所得金額」という。)、納付すべき税額を一五五六万五〇〇〇円とする確定申告をした。

その際、原告は、本件事業年度の本件賃借料年額二四〇〇万円を支払っていたので、二〇四〇万円を損金の額に算入した。

(二) 原告は、岡崎税務署長に対し、平成三年三月二七日、本件事業年度の法人税について、原告に対する法人税調査により被告から指摘された別表一の項目について、当初所得金額に別表一記載の金額を加算減算して、所得金額を七五二五万七一八四円(以下「修正所得金額」という。)、納付すべき税額を二七九四万四六〇〇円とする修正申告をした(以下「本件修正申告」という。)。

(三) 岡崎税務署長は、右修正申告に係る別表一記載の金額のうち1ないし7の項目について、国税通則法六八条一項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当すると認め、同表一記載の金額のうち8ないし10の項目については、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があったとは認めず、原告に対し、平成三年三月二九日付けで過少申告加算税七万九〇〇〇円、重加算税四〇五万三〇〇〇円を賦課する旨の決定処分をした(以下、重加算税についての決定を「原重加算税賦課決定」、両処分をまとめて「原賦課決定」という。)。

(四) 原告は、岡崎税務署長に対し、平成三年五月二九日に原賦課決定を不服として、異議申立てを行った(乙六)。

(五) 原告は、岡崎税務署長に対し、平成三年五月三一日に本件事業年度の法人税について、右修正申告に係る別表一記載の金額のうち1の賃借料二〇四〇万円について、これを所得金額に加算したことは誤りであったとして、所得金額を五四八五万七一八四円、納付すべき税額を一九八〇万一三〇〇円とすべき旨の更正の請求をした(甲九)。

(六) 岡崎税務署長は、原告に対し、平成三年一一月五日、本件事業年度の所得金額を六四二〇万三八八四円、納付すべき税額を二三五三万〇七〇〇円とする更正決定(以下「本件更正処分」という。)をした(甲一〇)。

その理由は、原告が新木鈴子に対して本件賃借料を支払うことは正当と認めるものの、本件賃借料は過大であるので、法人税法一三二条(同族会社等の行為又は計算の否認)の規定を適用して、本件設備に係る適正賃料の年額を九〇〇万円と認定し、適正賃料を超える一一四〇万円を、賃料名義で支払われた原告の役員である新木鈴子に対する役員報酬となるとしたうえで、本件事業年度において新木鈴子に対して役員報酬として支払われた一五六〇万円を加えた合計二七〇〇万円のうち適正報酬額として認定した一八八〇万円を超える八二〇万円が、法人税法三四条(過大な役員報酬の損金不算入)一項の規定による損金の額に算入されない金額となるというものである。

(七) 原告の原賦課決定に対する異議申立てに対し、異議審理庁は、平成三年一一月五日付けで、別表一記載の金額のうち1の賃借料二〇四〇万円を基因とする重加算税の賦課決定処分を取り消し、過少申告加算税を五〇万五〇〇〇円、重加算税を一〇一万八〇〇〇円とする異議決定をした(以下、重加算税についての決定を「重加算税変更賦課決定」、両決定をまとめて「変更賦課決定」という。乙七)。

(八) 原告は、岡崎税務署長に対し、平成四年一月六日、本件更正処分を不服として、異議申立てをしたところ(甲一一)、異議審理庁は、平成四年四月一三日付けで棄却する異議決定をしたので(甲一二)、原告は、右異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成四年五月一四日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが(甲一三)、同所長は、平成七年一一月二九日、その更正処分は適法であるとして右審査請求を棄却する旨裁決し、同裁決は、平成七年一二月六日、原告に送達された(乙一)。

二  事案の概要

本件は、法人税について、本件賃借料が過大であるとして賃料の一部を否認し、その結果、役員報酬が過大になり、一部損金不算入になるとして被告が行った更正処分及び過少申告加算税・重加算税の賦課処分が違法であるとして、右各処分の取り消しを求める事案である。

三  争点及び争点に対する当事者の主張

(本案前の争点)

1 変更賦課決定は、取消しの対象となるか。

(被告の主張)

被告が行った原賦課決定の過少申告加算税額及び重加算税額の合計額は四一三万二〇〇〇円であり、被告が行った変更賦課決定の過少申告加算税額及び重加算税額の合計額は一五二万三五〇〇円である。変更賦課決定は、原賦課決定を総額において減額する処分であり、原賦課決定を一部取り消す処分にほかならないから、原告は、変更賦課決定自体に対してその取消しにより救済を求める訴えの利益はない。

よって、主位的請求のうち、変更賦課決定の取消しを求める請求は、不適法である。

(原告の主張)

変更賦課決定の性質は、原賦課決定の全部を取り消したうえで、あらためて残額につき具体的租税債務を確定させる効果を有する処分であるというべきであるから、変更賦課決定が原賦課決定を総額において減額変更するものであっても、変更賦課決定について、なお取消しを求める利益を有する。

2 不服申立前置主義違反はあるか。

(被告の主張)

原賦課決定は、原告の修正申告に対して、別表一記載の金額のうち1ないし7の項目を基因とする重加算税四〇五万三〇〇〇円及び別表一記載の金額のうち8ないし10の項目を基因とする過少申告加算税七万九〇〇〇円を決定する処分であり、重加算税変更賦課決定は、原告の異議申立てにより、右四〇五万三〇〇〇円の原重加算税賦課決定について、別表一記載の金額のうち1の賃借料二〇四〇万円、5の減価償却費九二万二九七三円及び6の諸費用四二万一四一八円を基因とする重加算税額を取り消し、重加算税の額を一〇一万八五〇〇円とする処分である。

このように、重加算税変更賦課決定は、別表一記載の金額のうち2ないし4及び7の項目を基因とする重加算税一〇一万八五〇〇円の賦課決定処分であり、本件更正処分取消しの訴えと課税要件を共通にしているものではない。

さらに、重加算税変更賦課決定については、異議申立て及び審査請求はされていない。

したがって、予備的請求のうち、原重加算税賦課決定(ただし、重加算税変更賦課決定で変更されたもの)の取消しを求める請求は、不服申立前置の要件を欠くものとして不適法であり却下されるべきものである。

(原告の主張)

本税についての更正処分取消しの訴えが出訴期間内に適法に提起されている以上、その加算税に関する予備的請求については、それ自体についての不服申立てを経ていなくても、適法に加算税の取消しの訴えを提起しうるというべきであるし、このような場合には、加算税の取消しの訴えそれ自体についての出訴期間を問題にする必要はなく、何時でも適法に追加請求しうるものというべきである。

(本案の争点)

3 本件賃借料の一部を否認することは適法か。

(被告の主張)

(一) 本件賃借料の金額が適正であるかどうかを判断するに当たっては、法人税法上、経済的実質に着目して、本件設備の賃貸借に関する取引行為の当事者が、それぞれ純経済人として、自由経済市場において合理的経済的に行動して当該設備の賃貸借取引をする場合に形成されると認められる賃料の額、換言すれば通常の取引相場において成立する賃料の額を目途として判断すべきものである。

そして、利害の対立する関係にない同族会社とその役員との取引においては、往々にして経済的合理性を無視した、恣意的な価額による賃貸等が行われることがあり得るから、当事者間で合意された賃料であるからといって直ちに適正賃料ということはできないというべきである。

(二) 適正賃料の算定方法について

適正賃料の金額は、対象資産の取得価額に期待利回りを乗じ、その金額に諸経費等を加算する方法(積算式評価法)により算定すべきである。

原告は、本件設備については、その賃貸借をめぐって市場は形成されていないから、金融市場等において形成される期待利回りに準じて適正賃料の額を算定するという行動をとる前提が欠けていると主張するが、被告の算定方法は、現に市場が形成されていることを前提に、その市場における取引価額をもって適正賃料とするものではなく、取得価額を基にいわゆる積算法によって適正賃料の額を算出したものであるから、原告の主張は失当である。

すなわち、人が物の値打ち(経済価値)を判定する場合には、<1>それにどれほどの費用が投じられて造られたものであるか(費用性)、<2>それが市場においてどれほどの値段で取引されているものであるか(市場性)、<3>それを利用することによってどれほどの収益(便益)が得られるものであるか(収益性)という三つの観点を考慮しているのが通例である。そして、賃料を算定する方法として、右<1>ないし<3>の各観点に対応して<1>積算法<2>比較法<3>収益法がいずれも一般的に是認され、現に利用されているものである。

本件についてみると、右<2>の比較法については、豊田税務署管内及び近隣の税務署管内には類似する取引事例がないので採用できず、また、右<3>の収益法については、資産に帰属する適正な収益を基礎として対象資産の賃料を求める手法であるので、資産の価額とその資産から生ずる収益とが他の要素、すなわち、原材料費、人件費、経営手腕等とは無関係に対応する関係になければ採用できないが、原告の収益のうち一定の割合が本件設備に帰属するといった関係が本件において成立しているか否かは不明であるし、もし仮に成立していたとしても、本件設備に帰属する収益の割合を正確に把握することは困難であるから採用できない。結局、本件設備の適正賃料を算出するには、その取得価額が明らかであることから、右<1>の積算法が最も合理的であるというべきである。

原告は、「本件賃借料を支払って後、なお、適正な利潤を確保し得るか否かという観点」から算定すべきと主張するが、それがいかなるものかが十分明らかでないし、前記<3>の収益法の発想に基づくものであるとして、仮に原告の利益が五五〇〇万円であったとしても、それは、原告の経営者の経営手腕を始め、従業員の努力、社会的情勢等諸般の事情に基づき結果として発生したものであって、そのうちのどれほどが本件設備の稼働によってもたらされたのかという対応関係を把握できない以上、原告の利益の額は本件賃借料が適正なものであることの根拠とはなり得ない。

(三) 取得価額について

(1) 新木鈴子は、昭和五六年一月、訴外新木商事株式会社(新木正夫の父新木信栄が代表取締役。以下「新木商事」という。)から、同社が昭和四九年一二月に取得し、操業していたバッチャープラント設備(以下「旧設備」という。)を取得し、昭和六三年一月、光洋機械産業株式会社(以下「光洋機械産業」という。)からバッチャープラント本体設備を四〇〇〇万円で取得し、旧設備の本体設備に代えてこれを設置した。

新木商事は昭和四九年一二月ころ旧設備を四〇〇〇万円で取得していること、新木商事は昭和五五年八月三一日現在の当該バッチャープラントの未償却残額(帳簿価額)を九二二万七九三四円と認めていたこと、新木鈴子は昭和五九年一月三〇日付けで藤岡町長に対し、機械及び装置の取得価額を一一〇〇万円、昭和五九年一月一日現在の帳簿価額を四四〇万円とする昭和五九年度償却資産申告書を提出したこと、新木鈴子は、確定申告においても右取得価格に基づき同設備賃貸に係る所得金額を計算してきたことからすると、本件設備の取得価額は、旧設備の取得価額一一〇〇万円と、昭和六三年一月に本体設備を取り替えた四〇〇〇万円を加算した五一〇〇万円と認めるのが相当である。

(2) 原告は、右価格が個別主観的事情によるものであって、同設備の客観的取得価格が実際に取引された金額とは異なる旨主張するが、新木鈴子は、原告の代表者の配偶者であって、当時西三河生コンクリート協同組合の役員であった原告の会社役員でもあったことから、生コンクリート業界にも知識があり、本件バッチャープラントの設備能力や消耗の程度についても他の者以上に熟知していたと認められるところ、同人が購入した価格が不相当なものであるとすることは、特別の事情もない限り、できないというべきであるし、同設備の買主である新木鈴子と売主である新木商事の間で売買価格が適当でなかったとして売買価格の変更あるいは訂正等がなされたことはないことからすれば、原告の主張は根拠がない。

(3) 原告は、本件設備の価額について、本件設備を新たに建設した場合に要する費用が二億三七〇〇万円と見積もられていることからすれば、被告が主張する価額には根拠がないと主張する。

しかし、そもそも二億三七〇〇万円という数字自体が単なる見積りであって確定金額ではないこと、本件設備と右見積りの時点が大きく異なるので、同見積金額をもって単純に本件設備の価額と二億三七〇〇万円を比較することができないこと、右見積りの設備と新木鈴子が原告に賃貸していた設備の内容が一致するものであるか否かについて、新木鈴子が原告に賃貸していた設備の明細が不分明である以上、何ら証拠がないこと、右見積金額を根拠として適正価額を把握するためには設備自体の使用による減価を考慮しなければならないのに考慮されていないことから、原告の主張は失当である。

(4) 原告は、田中生コンクリート株式会社(以下「田中生コン」という。)がその生コンクリート製造設備等を株式会社田中建材(以下「田中建材」という。)に売却した事例を根拠に、本件設備の価額は一億八〇〇〇万円程度になると主張する。

田中建材は、昭和六二年一〇月、田中生コンから、土地貸借権、機械設備及び自動車等を一億三〇六一万一三二五円で購入し、当初、右購入にかかる資産を、昭和六三年六月期に田中生コンから取得した資産として総額一億五二四一万一三二五円を決算書に計上して申告した。更に修正申告において、同金額に二〇〇〇万円を加算した金額一億七二四一万一三二五円をもって最終的な取得価額の総額とした。ところで、田中建材は、右田中生コンから取得した資産について右取得価額総額一億七二四一万一三二五円をそれぞれ建物、借地権、機械装置等に振り分けてそれぞれの取得価額に配賦して経理しており、それによれば、本件で問題となる生コンクリート製造設備に対応する田中建材の資産は、多く見積もっても構築物一二九三万九〇〇〇円と機械装置二五〇七万円の合計金額三八〇〇万九〇〇〇円にしかならず、原告が主張する田中生コンの設備について売買された価額をもって、その主張の根拠とすることはできない。

原告は、プラントの製造能力が一・五倍あるから同設備の価額は田中建材が取得した設備の価額の一・五倍になる旨主張するが、機械設備だけに限っていえば、生産能力の比率をもってそのまま設備価格の比率とできないので、原告の主張は根拠がない。仮に、田中建材が田中生コンから取得した生コンクリート製造設備の取得価額とした三八〇〇万九〇〇〇円が本件設備と相応するものとしても、設備生産能力と設備価格の相関関係は八対一〇であるから、本件設備の価額は四七五〇万円余りの価額と算定される。

(5) 新木鈴子は、本件設備を原告が一億円から一億五〇〇〇万円ぐらいで取得したようにいうが、そもそも、同人は記憶が定かでないといっており、また、同社が昭和五五年から五六年ころに生コン設備を更新した事実はなく、同人がいうのみでこれを裏付ける証拠はない。したがって、同設備の価額について、これをもって原告の主張の根拠とすることはできないというべきである。

(四) 期待利回りについて

(1) 期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した一定額の資本に対して期待される収益のその資本に対する割合である。株式市場や公社債市場等の金融市場には、絶えず、有利な投資対象を求めて資金が流入し、また、そこでは、有利な条件で資金を調達しようとする需要が競合しているので、これらの市場において供給される資金に付されている利子は、相互の競争関係のもとに形成されている。

したがって、利回りは、株式、公社債、預貯金等の各種の金融資産との関連において当該金融資産の有する投資対象としての危険性、流動性等を反映して、それぞれ一定の水準を示しているものである。不動産等に投資される資金といえども、右のような各金融資産への投資と常に競合関係にあるので、不動産等投資から期待される収益は、それらの金融資産との関連においてその不動産等の有する投資対象としての危険性、流動性等を反映して定められるべきものである。

(2) これを本件についてみると、本件設備のような生コンクリート製造設備は、一般に転々流通するものではなく、また、バッチャープラント本体設備は昭和六三年に取り替えられていることから、土地等の不動産に比べて投資対象としては短期的で安全性が低いと認められる。そこで、本件においては、投資期間が長期的でかつ最も安全性が高いと認められる投資というべき昭和六三年の一〇年利付国債の平均的な応募者利回り四・九六五パーセントに、本件バッチャープラントが土地等の不動産に比べて投資対象としては短期的で安全性が低いことを考慮して三パーセント強を加えた八パーセントを期待利回りとして算定した。

(3) 原告は、本件設備の賃借人である新木鈴子は、本件設備を廃棄した場合に補償金一億円を受け取る立場にあることを前提として、本件設備の適正賃料の算定に当たっては一五ないし二五パーセントを適正利回りと観念するのが相当である旨主張する。

しかし、生コンクリート製造設備共同廃棄事業実施要綱によれば、買上げ廃棄対象者は、組合が賦課した準備金を負担する組合員であって、組合の総会(又は理事会)が認めたものと規定しており、本件における買上げ廃棄対象者は原告であって、新木鈴子ではないから、新木鈴子が買上げ廃棄対象者としてその補償金一億円を当然に取得することを前提とした原告の主張は失当である。

(五) 必要諸経費等について

資産の賃貸借に当たって、その賃料に含まれる必要諸経費等には、公租公課(固定資産税等)、減価償却費、維持管理費(修繕費)及び損害保険料等がある。

減価償却費は、本件設備について、新木鈴子が昭和四九年に新設した本件バッチャープラントを昭和五六年一月になって新木商事から取得した経緯から、法定耐用年数九年を中古資産を取得したときの耐用年数に直して、定額法により算定すると六四七万五〇〇〇円となる。

公租公課は、新木鈴子が負担している固定資産税があり、その額は四九万四七〇〇円であり、修繕費等その他の経費は原告が負担しているので本件設備に係る必要諸経費等の金額は、六九六万九七〇〇円(六四七万五〇〇〇円+四九万四七〇〇円)となる。

(六) 適正賃料額

以上みたとおり、本件設備の適正賃料の金額は、本件設備の取得価額五一〇〇万円に期待利回り八パーセントを乗じて、必要諸経費等の金額六九六万九七〇〇円を加算すると一一〇四万九七〇〇円となる。

(七) 原告は、法人税法二条一〇号に規定する同族会社であるところ、本件設備の適正賃料の金額は一一〇四万九七〇〇円となるので、原告の本件賃借料二四〇〇万円のうち、右一一〇四万九七〇〇円を超える部分の金額一二九五万〇三〇〇円は、否認する。

(原告の主張)

(一) 法人税法一三二条の趣旨は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社またはその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑みて、税負担の公平を維持するために認められたものである。右規定にいう税負担を不当に減少させるような行為や計算とは、純経済人として不合理・不自然な行為・計算のことをいうと解すべきであるから、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合または独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引と異なっている場合に限って否認しうるものと解すべきである。

(二) 適正賃料の算定方法について

(1) 本件設備は、生コンクリートの製造という特化された用途のみに供されるものであること、生コンクリートの製造は、事実上、他業者の算入が困難な閉鎖された業種であること、製造された生コンクリートはその品質管理の観点から製造出荷から一定時間内に打設をしなければならないという制約があるため、市場も地域的に限定されていることという特殊性がある。

このような特殊性から、本件設備については、そもそもその賃貸借をめぐって市場は形成されていないから、金融市場等において形成される期待利回りに準じて適正賃料の額を算定するという行動をとる前提が欠けているというべきである。このことは、被告においても、期待利回りを国債の利回り五パーセントに三パーセントを付加して八パーセントを相当とする修正を余儀なくされているということ自体からも明らかである。

(2) 本件設備の適正賃料の額については、原告の事業所得は、本件設備が使用可能なことによってもたらされているという面を端的にとらえて、事業所得のうちに占める適切な割合はどれだけか(本件賃借料を支払って後、なお、適正な利潤を確保しうるか否か)という観点から判定することも許されるというべきである。

このような観点に立てば、原告の本件事業年度における更正の請求をした後の所得金額は約五五〇〇万円あり、事業継続上、充分な利益を有しているのであるから、本件設備の賃料の額について純経済人として不合理・不自然な行為・計算はないというべきである。

(三) 取得価額について

仮に、本件設備について積算式評価法により適正賃料を算出するとしても、対象資産の取得価格、期待利回り及び諸経費の額のいずれについても、経済取引上合理的なものであるべきであるところ、次のとおり、第一に、本件設備の取得価額を五一〇〇万円とするのは不当であるし、第二に、期待利回りを八パーセントとするのは低きに失し、根拠がない。

(1) 被告は、新木鈴子が藤岡町長に提出した償却資産申告書に記載の旧設備の取得価額等を根拠に、本件設備の取得価額を算定しているが、償却資産申告書に記載された本件設備の取得価額等は本件設備の取得価額等を確定するものではないこと、本件設備を新規に建設した場合に要する費用は二億三七〇〇万円と見積もられていること、新木鈴子も、現在のバッチャープラント設備に建て替える前の同設備の建設費用が一億円から一億五〇〇〇万円位だったと記憶していると述べていることからすれば、被告が本件設備の再調達価額を五一〇〇万円と見積もったのは、誤りである。

(2) 被告は、原告が同族会社であることをもって対象資産の取得価格を現実の取得価格である五一〇〇万円とすべきであるとするが、これは、適正賃料の算定にあたり、個別主観的事情を恣意的に混入させるものにほかならず、合理的とはいいがたい。

(3) 西加茂郡藤岡町所在の田中生コンは、同社の内紛が原因で、昭和六〇年、名古屋地方裁判所岡崎支部において破産宣告を受け(同庁昭和六〇年(フ)第一八〇号)、昭和六二年八月、破産管財人によって同社所有の生コンクリート製造設備一式のほか、自動車、動産のほか、建物、土地利用権(地上権及び賃借権)を田中建材に対し、一億三〇〇〇万円余りで任意売却した。右任意売却物件に占める土地利用権の価格は、平成五年度の相続税評価額によると、一二一七万円余りにすぎないから、任意売却時の昭和六二年当時は更に低額であったと推測されるが、そうでないとしても生コンクリート製造設備一式の価格は一億二〇〇〇万円程度と推測される。

生コンクリート製造設備には割り当てられたシェアーがあり、そのシェアーによって同設備の取引価格が決定されるというものであるから、田中建材が取得した生コンクリート製造設備の価額は、構築物と機械装置の合計額である三八〇〇万九〇〇〇円ではなく、これに少なくとも営業権として計上されている七二五三万六九二五円を加えた一億一〇五四万五九二五円とみるべきである。なお、借地権も営業の基盤となるものであり、実質は営業権の内実を持つというべきであり、その価額三九六五万五五〇〇円も更に加算されるべきである。

同社の生産能力は、一〇〇〇立方メートルであり、原告の本件設備の生産能力一五〇〇立方メートル三分の二にすぎない。これら事情を考慮すれば、本件設備の取得価格は、田中生コンの生コンクリート製造設備一式の価格約一億二〇〇〇万円の一・五倍の一億八〇〇〇万円程度というべきである。

(四) 期待利回りについて

前記のような本件設備の特殊性からして、期待利回りの加算が三パーセントというのは低すぎる。また、本件設備を廃棄した場合、原告は補償金一億円を受け取ることができ、その相当部分は所有者である新木鈴子に帰属するものであるところ、新木鈴子にとっては、本件設備を廃棄して補償金を取得することと、本件設備を引き続き賃貸借することといずれか有利な選択をすることになり、他方、原告は、本件設備を賃貸借することによってはじめて本家設備を稼働させて収益を得ることができるのであるから、新木鈴子が本件設備を破棄することなく、賃貸借を継続した方が有利であるように賃料を設定せざるを得ない。それゆえ、本件設備の賃料は、長期的かつ安全な不動産投資と同じか、それに準じる五パーセントないし八パーセントという低い期待利回りに止まることはできず、原告においては、事業継続のためには、不動産投資の場合に比して、期待利回りにおいて格別に有利な扱いをするとしても、純経済人として何ら不合理・不自然ではないというべきである。

本件設備の適正賃料の算定にあたっては、一五ないし二五パーセントを適正利回りと観念するのが相当である。

(五) 適正賃料について

本件設備の適正賃料は、仮に本件設備の取得価額を一億五〇〇〇万円、適正利回りとを一五パーセントと見積もっても、必要経費である固定資産税及び減価償却費を加えれば、その額は年額二四〇〇万円を上回ることは明らかであるから、年額二四〇〇万円の賃借料は適正賃料というべきである。また、田中生コンの事例を考慮すると、取得価格は少なくとも一億八〇〇〇万円であるから、期待利回りを原告主張の一五パーセントとし、諸経費については被告主張の六九六万九七〇〇円とすると、適正賃料は三三九六万九七〇〇円となる。仮に期待利回りについて、被告が主張する八パーセントとした場合は、適正賃料は二一三六万九七〇〇円となり、前記原告の実際支払賃二四〇〇万円はその約一二パーセント増となるが、この程度の幅であれば到底不当過大な賃料額とは言えない。

4 原告の新木鈴子に対する役員報酬の一部を損金に算入しないことは適法か。

(被告の主張)

(一) 役員報酬とは、役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)で、賞与・退職給与以外のものをいう(法人税法三四条二項)ところ、本件設備に係る本件賃借料二四〇〇万円のうち、適正賃料一一〇四万九七〇〇円を超える一二九五万〇三〇〇円は、新木鈴子に対する経済的利益の供与にほかならず、法人税法三四条二項により、新木鈴子に対する役員報酬であると認められる。

したがって、本件事業年度における、原告の新木鈴子に対する役員報酬の額は、当初役員報酬として計上した(以下「当初役員報酬額」という。)一五六〇万円と右適正賃料を超える金額の合計額二八五五万〇三〇〇円となる。

(二) 過大役員報酬の額

法人税法三四条一項は、役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金の額に算入しない旨規定しているところ、これを受けて、法人税法施行令六九条一項は、右の政令で定める金額は、当該役員の職務の内容、当該法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額(以下「適正報酬額」という。)を超える部分の金額である旨規定している。

(1) 新木鈴子の職務の内容

新木鈴子は昭和五四年七月三一日までは原告の監査役として、また、その後は原告の取締役として原告の事務に従事してきた。新木鈴子は、コンクリートの製造関係についてはほとんど知識がないためにこれには関与しておらず、原告の経理関係の仕事を主として担当し、振替伝票・入出金伝票の起票、現金出納帳・銀行帳の記帳、資金繰表の作成及び給与の計算とその入力を行っていた。

新木鈴子は、セメント販売及びパチンコ店の経営を行う訴外新木興業株式会社においても同様に経理の仕事を手掛けていたため、原告に専属して業務に従事していたものではない。

(2) 原告の収益の状況

本件事業年度における原告の売上金額は別表二の「売上金額」欄記載のとおりであり、売上総利益の額は別表二の「売上総利益の額」欄記載のとおりである。これらの額は昭和六三年一〇月一日から平成元年九月三〇日までの事業年度(以下「前事業年度」という。)の、売上金額は約九七・六パーセント、売上総利益の金額は約九七・一パーセントとなっている。

(3) 原告における使用人に対する給料の支給状況

本件事業年度における原告の使用人に対する給料の支給状況は、別表二の「使用人給与の額」欄記載のとおりである。この額は前事業年度の約九二・七パーセントとなっている。

(4) 類似法人における役員報酬の支給状況

<1> 被告は、原告の本件事業年度における新木鈴子に対する役員報酬のうち過大な部分が存在するか否か及びその金額を調査するため、原告の業種、業態、事業所の所在地、事業規模等を念頭におき、次の基準を満たす法人(以下「類似法人」という。)を抽出した。

<2> 類似同業者の抽出基準

a 豊田税務署及び岡崎税務署管内(調査部所管法人を含む。)において、日本産業分類(行政管理庁)の分類項目表による大分類F―製造業のうち、中分類二五―窯業・土石製品製造業のうち、小分類二五二―セメント・同製品製造業のうち、二五二二生コンクリート製造業を営む法人で、平成二年四月一日から平成三年三月三一日の間に終了する事業年度について、法人税法一二一条(青色申告)の承認を受けて、法人税の確定申告書を提出した法人

ただし、次のイからニに該当する者を除く。

イ 上記期間の中途において、設立、解散、休業、又は業種目等の変更並びに決算期待を変更した法人

ロ 更正処分又は決定処分を受けた法人のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立中又は訴訟中の法人

ハ この報告書の作成日現在において、法人税の調査が行われている法人

ニ 他の業種目を兼業している法人

b 当該事業年度における売上金額が、おおむね年額五億三〇〇万円を超え二〇億一四〇〇万円以下の範囲内にある法人

なお、当該法人が事業年度を六か月とする法人の場合、当該事業年度における売上金額は、上記aの期間中に終了する二事業年度の合計額で判断することに留意する。

c 申告所得金額が欠損金額でない法人

<3> 右の抽出基準により選定された類似法人六社の役員報酬の支給状況等は別表三のとおりである。

<4> 以上述べたところからすると、類似法人と比較して、原告の新木鈴子に対する役員報酬の額が著しく高額であることは明らかである。

<5> 同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等について、類似法人の代表取締役以外の一人当たり役員報酬額の平均額を基に類似法人の売上金額、売上総利益の金額、個人換算所得及び使用人給与最高額の平均比率を加重平均して算出すると、別表四のとおりである。

(5) 以上述べたところを総合すると、本件事業年度における新木鈴子に対する適正報酬額は、当初役員報酬額一五六〇万円を上回ることはないというべきである。

(6) したがって、原告の新木鈴子に対する本件事業年度の役員報酬二八五五万〇三〇〇円のうち、適正報酬額一五六〇万円を超える部分の金額一二九五万〇三〇〇円は損金の額に算入されない。

(原告の主張)

前記3(原告の主張)欄記載のとおり、原告の本件設備に対する本件賃借料二四〇〇万円は適正であるから、原告の新木鈴子に対する役員報酬は一五六〇万円となるところ、被告も認めるとおり一五六〇万円は適正報酬額であるから、損金に算入されない過大な役員報酬は〇円となる。

5 本件賦課決定処分の適法性

(被告の主張)

(一) 隠ぺい又は仮装の行為の存在

原告は、別表一記載の金額のうち2ないし4及び7の項目について、期末在庫として計上すべき金額のうち、セメント・軽油の在庫を除外したこと、平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度の修繕費を本件事業年度の修繕費であるかのごとく仮装して計上したこと、割賦購入した変電設備の割賦代金を賃料に仮装して計上したこと、個人の乗用車を原告の車両であると仮装して、架空の減価償却費及び諸費用を計上したこと、原告の代表者の個人的衣類を作業服に仮装して計上したことなどが認められ、右行為は、国税通則法六八条一項に規定する隠ぺい又は仮装の行為に該当する。

(二) 重加算税額の計算について

被告は、本件修正申告により原告が新たに納付すべきこととなった税額(本件更正処分により一部取消された後の金額)のうち二九一万円を同項の規定に基づく重加算税の基礎となる税額(ただし、同法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数切捨て。)とし、これに一〇〇分の三五を乗じて計算した金額一〇一万八五〇〇円を算出し、これを賦課決定したものであり、重加算税に関する賦課決定処分は適法である。

(三) 過少申告加算税の賦課決定処分について

被告は、本件修正申告により原告が新たに納付すべきこととなった税額(本件更正処分により一部取消された後の金額)のうち五〇五万円を国税通則法六五条一項の規定に基づく過少申告加算税の基礎となる税額(ただし、同法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数切捨て。)とし、これに一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額五〇万五〇〇〇円を算出し、これを賦課決定したものであり、原告が右税額の計算の基礎となった所得金額を過少に申告したことについて、同条四項に規定する正当な理由があったとは認められないから、過少申告加算税に関する賦課決定処分は適法である。

(原告の主張)

否認する。

第三当裁判所の判断

一  変更賦課決定は、取消しの対象となるか(争点1)。

1  国税通則法六五条の規定による過少申告加算税と同法六八条一項の規定による重加算税とは、ともに申告納税方式による国税について過少な申告を行った納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものであって、同一の修正申告又は更正に係るものである限り、その賦課及び税額計算の基礎を同じくし、ただ、後者の重加算税は、前者の過少申告加算税の賦課要件に該当することに加えて、当該納税者がその国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出するという不正手段を用いたとの特別の事由が存する場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課することとしたものと考えられるから、両者は相互に無関係な別個独立の処分ではなく、重加算税の賦課は、過少申告加算税として賦課されるべき一定の税額に前記加重額に当たる一定の金額を加えた額の税を賦課する処分として、右過少申告加算税の賦課に相当する部分をその中に含んでいるものと解するのが相当である(最高裁昭和五八年一〇月二七日第一小法廷判決・民集三七巻八号一一九六ページ)。

このように、法文上、重加算税と過少申告加算税とは別個に規定されているが、その実質に着目すれば、過少申告加算税についての重加算税は、過少申告加算税を賦課するべき場合のうち加重要件が存する場合に、その税額の計算の特例について規定したものと解すべきである。

したがって、たとえ変更賦課決定において過少申告加算税が増額していたとしても、少なくとも過少申告加算税の基礎となる増差税額及びうち隠ぺい・仮装の部分の双方が減少し、その結果過少申告加算税と重加算税の総額が減少している場合には、その処分は全体として加算税を減額する一つの処分とみるべきである。

2  本件において、原賦課決定における過少申告加算税の基礎となる増差税額が一二三七万円、隠ぺい・仮装の部分が一一五八万円であるのに対し、変更賦課決定における過少申告加算税の基礎となる増差税額が七九六万円、隠ぺい・仮装の部分が二九一万円といずれも減少している。

3  以上のように、変更賦課決定は、原賦課決定を減額変更する処分であり、原賦課決定を一部取り消す処分にほかならないから、原告は、変更賦課決定自体に対してその取消しにより救済を求める訴えの利益はないものといわなければならない。

4  したがって、主位的請求のうち、変更賦課決定の取消しを求める訴えは、不適法である。

二  不服申立前置主義違反はあるか(争点2)。

前記争いのない事実等に記載の経緯によれば、原賦課決定は、原告の修正申告に対して、別表一記載の金額のうち1ないし7の項目を基因とする重加算税四〇五万三〇〇〇円及び別表一記載の金額のうち8ないし10の項目を基因とする過少申告加算税七万九〇〇〇円を決定する処分であり、重加算税変更賦課決定は、原告の異議申立てにより、右四〇五万三〇〇〇円の原重加算税賦課決定について、別表一記載の金額のうち1の賃借料二〇四〇万円、5の減価償却費九二万二九七三円及び6の諸費用四二万一四一八円を基因とする重加算税額を取り消し、重加算税の額を一〇一万八五〇〇円とする処分であることが認められる。よって、重加算税変更賦課決定は、別表一記載の金額のうち2ないし4及び7の項目を基因とする重加算税一〇一万八五〇〇円の賦課決定処分であり、これについての異議申立て及び審査請求はない。また、重加算税変更賦課決定の基礎となる事実は、本件更正処分取消しの訴えと課税要件を共通にしているものではない。

したがって、予備的請求のうち、原重加算税賦課決定(ただし、重加算税変更賦課決定により変更されたもの)については、不服申立前置がないものといわざるを得ず(国税通則法一一五条)、右決定の取消しを求める部分の訴えは不適法である。

三  本件賃借料の一部を否認することは適法か(争点3)。

1  被告は、本件更正処分において、同族会社である原告が新木鈴子に支払った本件賃借料二四〇〇万円を損金に計上した行為の一部を法人税法一三二条一項に基づき、否認しているので、この適法性が問題となる。

法人税法一三二条は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社またはその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことに鑑みて、税負担の公平を維持するために認められたものである。右規定にいう税負担を不当に減少させるような行為や計算とは、純経済人として不合理・不自然な行為・計算のことをいうと解すべきであり、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合または独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引と異なっている場合に否認しうるものと解すべきである。

2  本件賃借料の算定方法について

そこで、まず、本件設備の適正賃料の算定方法について判断する。

(一) 賃料を算定評価する方法としては、<1>対象物件について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象物件の試算資料を求める手法である積算法、<2>多数の賃貸借の事例を収集して適切な事例を選択し、これらに係る実際実質賃料に必要に応じて事情補正等の個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって、対象物件の試算資料を求める手法である事例比較法、<3>一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象物件が一定期間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のもの)を求め、これに必要諸経費等を加算して対象物件の試算資料を求める手法である収益法が考えられる。<1>積算法は、対象物件の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を適正に行うことができる場合に有効なものであり、<2>事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において、対象物件と類似の物件の賃貸借が行われている場合に有効なものであり、<3>収益分析法は、企業の用に供されている対象物件に帰属する純収益の額を適切に求め得る場合に有効なものである。

いずれの方法も不動産の賃料の算定方法として是認されたものであり、本件設備の算定方法としても相当な方法と考えられるので、対象物件の特性等に応じて合理的な算定方法を採用すべきである。

(二) そこで、本件賃借料を算定する方法として合理的な方法はいずれか判断する。

証拠(証人加藤茂)及び弁論の全趣旨によれば、本件設備は生コンクリートの製造設備であって、類似する取引事例が少ないこと、豊田税務署管内及び近隣の税務署管内には類似する取引事例がないことが認められるので、<2>事例比較法を採用する前提を欠く。

また、<3>収益分析法は、資産に帰属する適正な収益を基礎として対象資産の賃料を求める手法であるので、不動産賃借権のように資産の価額とその資産から生ずる収益とが他の要素、すなわち、原材料費、人件費、経営手腕等とは無関係に対応する関係にあれば採用することができるが、本件設備のように、原告の収益のうちどのくらいの割合が本件設備に帰属するか正確に把握することが困難な場合には採用することは合理的ではない。

したがって、本件設備の適正賃料を算出するには、基礎価格となるべき取得価額、期待利回り及び必要諸経費等が明らかであることから、右<1>の積算法が最も合理的であるというべきであり、適正賃料の金額を、対象資産の取得価額に期待利回りを乗じ、その金額に諸経費等を加算する方法(積算式評価法)により算定すべきである。

(三) 原告は、「本件賃借料を支払って後、なお、適正な利潤を確保し得るか否かという観点」から算定すべきと主張するが、それは、前記<3>の収益法の発想に基づくものであるとしても、原告に生じた利益は、原告の経営者の経営手腕を始め、従業員の努力、社会的情勢等諸般の事情に基づき結果として発生したものというべきであって、そのうちのどれほどが本件設備の稼働によってもたらされたのかという対応関係を把握できない以上、原告の利益の額は本件賃借料が適正なものであることの根拠とはなり得ない。

(四) 原告は、本件設備は、生コンクリートの製造という特化された用途のみに供されるものであること、生コンクリートの製造は、事実上、他業者の参入が困難な閉鎖された業種であること、製造された生コンクリートはその品質管理の観点から製造出荷から一定時間内に打設をしなければならないという制約があるため、市場も地域的に限定されていることという特殊性があることから、本件設備については、その賃貸借をめぐって市場は形成されていないから、積算式評価法を採用する前提が欠けていると主張する。

たしかに、証拠(甲一四、一五、二一、二二、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、生コンクリート製造業においては、生コンクリートの品質を保つために製造後、建築現場での打設までの時間が厳格に制限されているため、地域的に限定されやすいこと、生コンクリート製造業者の組合が一括して需要家から受注して、傘下の組合員に受注量を割り当てるという慣行があったこと、販路を確保するために組合に加入する必要があるが、組合において「出荷調整規程」が定められていたこと(甲二一)、新規に参入すると受注量の割り当てに影響が生じるため設備の新設、増設が組合規定により容易には認められない状態にあったこと、という特殊性があることが認められる。

しかし、このような特殊性が認められるとしても、積算式評価法は、現に市場が形成されていることを前提にするものではないから、原告の主張は失当である。

3  取得価格について

(一) 証拠(甲五の一ないし六、六ないし八の各一と二、一一ないし一四、乙八、九、一一、一二、証人木村晃英、証人加藤茂、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告代表者の実父である新木信栄が代表取締役であった新木商事は、昭和四九年一二月ころ、旧設備を、メーカーである訴外日工株式会社中部支店から商社である訴外トーメン株式会社を通じ四〇〇〇万円で取得した(乙八)。

(2) 新木商事は、昭和五五年八月三一日現在における同社の旧設備の未償却残額(帳簿価額)を、九二二万七九三四円と認めた(定率法による)。

(3) 新木商事は、新木鈴子に対し、昭和五六年一月ころ、旧設備を帳簿価額で売却した(乙九、一二)。ただし、新木商事の売却時における帳簿価額は明らかでない。

(4) 原告は、昭和五六年一月五日、新木鈴子との間で、本件設備を同月以降月額二〇〇万円で賃借する旨のプラント設備賃貸借契約を締結し(甲一一)、同年以降、毎月、本件賃借料として二〇〇万円を支払っていた。

(5) 新木鈴子は藤岡町長に対し、昭和五九年一月三〇日付けで機械及び装置の取得価額を一一〇〇万円、昭和五九年一月一日現在の帳簿価額を四四〇万円とする昭和五九年度償却資産申告書を提出した(乙二)。

原告は、昭和五九年四月六日付けで、岡崎税務署に「プラント設備の賃借料についての申立書」を提出したが、税務調査で指摘を受けた賃料については単価の引き下げを考慮中であると申し立てた(乙一二)。

(6) 新木鈴子は、昭和六三年一月、光洋機械産業からバッチャープラント本体設備を四〇〇〇万円で取得し、旧設備の本体設備に代えてこれを設置した。

(7) 新木鈴子は藤岡町長に対し、機械及び装置の取得価額を四〇〇〇万円、平成三年一月一日現在の帳簿価額を二七一一万五八〇〇円とする平成三年度償却資産申告書を提出した(乙九)。

(8) 本件設備は、バッチャープラント本体設備(セメントと砂利、砂等を混ぜて生コンクリートを製造する設備)、骨材輸送設備(骨材である生コンクリートに混ぜてコンクリートの基本となる砂利や砂を自動的に骨材投入口から骨材ヤードへ搬送し、さらに骨材ヤードからバッチャープラントに搬入するベルトコンベアー)、付属設備(骨材置場、汚水を沈澱させる沈澱池等)からなる(甲五の一ないし六、六ないし八の各一と二、甲一一、乙一一)。

(二) 以上によれば、本件設備の取得価額は、旧設備の取得価額一一〇〇万円に、昭和六三年一月に本体設備を取り替えた四〇〇〇万円を加算した金額である五一〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)(1) 原告は、右価格が個別主観的事情によるものであって、同設備の客観的取得価格が実際に取引された金額とは異なる旨主張する。

しかし、証拠(甲一四、乙二)及び弁論の全趣旨によれば、新木鈴子は、原告の代表者の配偶者であること、本件事業年度当時、原告は西三河生コンクリート協同組合の役員であったこと、新木鈴子は原告の取締役であったことが認められ、生コンクリート業界にも知識があり、本件設備の能力や消耗の程度についても他の者以上に熟知していたと認められるから、特別の事情がない限り、同人が購入した価格が不相当なものであるとすることはできない。そして、本件において特別の事情は認められず、むしろ、新木鈴子と新木商事の間で売買価格が適当でなかったとして売買価格の変更あるいは訂正等がされたことがない事実を加えて考慮すると、原告の主張は認められない。

(2) 原告は、本件設備の価額について、本件設備を新たに建設した場合に要する費用が二億三七〇〇万円と見積もられていること(甲一ないし三)からすれば、被告が主張する価額には根拠がないと主張する。

たしかに、甲一ないし三によれば、平成三年一一月一二日付けで、光洋機械産業が、全自動式バッチャープラントについて一億七一三〇万円と見積もっていること、その内容としては、全自動電子制御方式ミキサーで能力が最大一バッチ当たり一五〇〇リットルであり、内訳としては、バッチャープラント本体設備六二二六万円、骨材輸送設備六六三一万円、付属設備四八三万円、付属工事三七九〇万円であること、汚水処理施設について、三一一〇万円と見積もられていること、平成三年一一月一八日付けで丸弥建設株式会社が、生コンプラント基礎工事として三四六〇万円を見積もっていることが認められる。

しかし、本件賃借料の対象となる本件設備に対応するものは、平成三年一一月一二日付けで、光洋機械産業が見積もった全自動式バッチャープラント分一億七一三〇万円であると認められるが、これらはいずれも新規受注した場合の見積りであって、確定金額ではないうえ、本件設備の取得価格との時点が大きく異なること、右見積りの内容としても、本件設備の内容が明らかでないものの、メモリー方式を採用しているなど、本体設備と同一であるものとは認められないこと、右見積金額は、適正価額としての使用による減価を考慮していないことから、右見積金額を基礎価格として採用することはできず、原告の主張は失当である。

(3) また、原告は、田中生コンがその生コンクリート製造設備等を田中建材に売却した事例を根拠に、本件設備の価額は一億八〇〇〇万円程度になると主張する。

証拠(甲一五ないし一九、二〇の一と二、乙一三ないし二〇)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

<1> 田中建材は、破産者田中生コン破産管財人から、昭和六二年八月三一日、田中生コンが所有していた作業場一棟(付属建物四棟あり)、地上権、土地賃借権、バッチャープラントを含む機械設備及び自動車九台及び動産等を一億三〇六一万一三二五円で買い受ける契約を締結した(甲二〇の二)。なお、右各物件の所有権等の移転時期は代金完済時(昭和六二年一〇月一五日)と定められていた。

<2> 右売買契約における対象土地の平成五年度の固定資産税評価額は、合計六七二万四九八六円であり(甲一六ないし一八)、相続税評価額は、右固定資産税評価額に課税地目ごとの倍率を乗じ借地権割合を乗じたもので、合計一二一七万〇二〇一円となる(甲一九)。

<3> 田中建材と原告との平成元年一二月一日現在のシェアー割合は、基本シェアーが二対三・六九一、豊田ブロック株式会社の預かりを含めると、二・〇七二対三・七六二である(甲一五)。

<4> 田中建材は、当初、右購入にかかる資産を、昭和六三年六月期に田中生コンから取得した資産として総額一億五二四一万一三二五円を決算書に計上して申告した。更に修正申告において、同金額に二〇〇〇万円を加算した金額一億七二四一万一三二五円をもって最終的な取得価額の総額とした(乙一五ないし二〇)。

<5> 田中建材は、「固定資産明細書」という題名のメモ(乙一八)において、昭和六二年六月期から平成二年六月期における固定資産を、建物、構築物、機械(生コンクリートプラントを含む)、車両運搬具、機械装置等に振り分けて、それぞれの取得時期、取得価額、耐用年数、各年度ごとの減価償却費、残存価額を記載した。そして、同明細書において取得年月が昭和六二年一〇月と記載されているものが田中生コンから取得した固定資産であるところ(前記<1>のように、売買契約自体は同年八月三一日付けであるが、代金の支払期限は同年一〇月一五日であるから同月に取得としたものと解される。)、取得価額として、建物が計四四五万六〇〇〇円、構築物が計一二九三万九〇〇〇円、生コンクリートプラントを含む機械が計二四九六万円、車輛が計一二一万二〇〇〇円、什器備品が計二四万九〇六〇円と記載されている。

以上の事実に前記(一)(8)認定の事実を併せて考えれば、本件設備は、右固定資産明細書でいう、構築物及び機械に該当するので、田中建材が取得した生コンクリート製造設備の取得価額は、構築物一二九三万九〇〇〇円と機械二四九六万円の合計金額三七八九万九〇〇〇円であるものと認められ、原告の主張を採用することはできない。

なお、原告は、田中建材の設備と本件設備とでは、後者の製造能力が前者の一・五倍あるから本件設備の価額は田中建材が取得した設備の価額の一・五倍になる旨主張するが、乙二二によれば、生産能力が一バッチ当たり一・五立方メートルの生コン製造設備一式を生産能力が一バッチ当たり一立方メートルの生コン製造設備一式に変更する場合の建築費用は、一〇〇分の八〇位であると認められ、生産能力の比率をもってそのまま設備価格の比率とみることはできないし、右割合によるとしても、本件設備の価額は四七三七万三七五〇円にすぎないことが認められ、原告の主張は認められない。

(4) 新木鈴子は、質問てん末書(乙二)において、本件設備を昭和五五年から五六年ころ、一億円から一億五〇〇〇万円くらいで取得したようにいうが、右供述自体あいまいであること、原告が昭和五五年から五六年ころに生コン設備を更新した事実は認められないこと、右供述を裏付ける証拠は存在しないこと、前記認定のように取得価額を一一〇〇万円及び四〇〇〇万円とする償却資産報告書を藤岡町長に提出していることから、信用できない。

4  期待利回りについて

(一) 次に、期待利回りがどのくらいか判断する。

期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した一定額の資本に対して期待される収益のその資本に対する割合である。

期待利回りを求める方法としては、株式、公社債、預貯金等の最も一般的と思われる投資の利回りを標準とし、その投資対象との関連において有する当該物件の個別性すなわち、投資対象としての危険性、流動性、資産としての安全性等を総合的に比較考量して求めるものであると解される。

(二) これを本件についてみると、本件設備のような生コンクリート製造設備は、一般に転々流通することが予定されておらず流動性がなく、また、バッチャープラント本体設備は昭和六三年に取り替えられていることや耐用年数が賃貸不動産と比較すると少ないことから、土地等の不動産に比べて投資対象としては短期的で安全性が低いと認められる。

したがって、投資期間が長期的でかつ最も安全性が高いと認められる投資というべき昭和六三年の一〇年利付国債の平均的な応募者利回り四・九六五パーセントに、上記事情を総合考慮して三パーセント強を加えた八パーセントを期待利回りとして算定することは相当ではないとはいえない。

(三) 原告は、本件設備の賃貸人である新木鈴子は、本件設備を廃棄した場合に補償金一億円を受け取る立場にあることを前提として、本件設備の適正賃料の算定に当たっては一五ないし二五パーセントを適正利回りと観念するのが相当である旨主張する。

たしかに、証拠(甲四)によれば、愛知県生コンクリート工業組合においては、生コン工場を廃棄すると買取り費用一億円の支払を受けることができることが認められるものの、これは、前記のとおり、生コンクリート製造業者の組合が一括して需要家から受注して、参加の組合員に受注量を割り当てるという慣行があったところ、設備が過剰なため組合としても出荷調整をせざるを得ないという情勢の下で、過剰設備を解消して各組合員の操業度を向上し、工場の規模、配置の適正化を図ろうとして、組合が中小企業近代化資金等助成法に基づく構造改善準備金をもって生コンクリート工場を買収して、これを廃棄しようとするものであり、愛知県生コンクリート工業組合作成の生コンクリート製造設備共同廃棄事業実施要綱(乙一〇)によれば、組合が買上げ廃棄する生コンクリート設備の価額は、設備の廃棄損に対する交付金、従業員の退職金補填に対する交付金、営業補償に対する交付金について、それぞれの算定基準に基づいて算出した額の合計額とするものとされており、また、「買上げ廃棄対象者は組合が賦課した準備金を負担する組合員であって、組合の総会(又は理事会)が認めたもの」と規定されていることが認められる。これによれば、生コンクリート製造設備そのものの取引価値にのみ着目して買収代金が支払われるものではなく、業界全体のために廃業する組合員に対する廃業の見返りとして支払われるもので、営業補償の要素が大であることがうかがわれるものである。よって、買取り費用の額をもって直ちに設備の取引価格と見ることは出来ないうえ、本件設備に関する、買上げ廃棄対象者は組合員である原告であって(甲一五)、新木鈴子でないことを考え併せると、新木鈴子が買上げ廃棄対象者としてその補償金一億円を当然に取得することを前提とした原告の主張は前提を欠き、失当である。

5  必要諸経費等

資産の賃貸借に当たって、その賃料に含まれる必要諸経費等には、公租公課(固定資産税等)、減価償却費、維持管理費(修繕費)及び損害保険料等がある。

減価償却費は、本件設備について、新木鈴子が昭和四九年に新設した本件バッチャープラントを昭和五六年一月になって新木商事から取得した経緯から、法定耐用年数九年を中古資産を取得したときの耐用年数に直して、定額法により算定すると六四七万五〇〇〇円となる(<1>+<2>)。

<1> 一一〇〇万円×〇・九/四年=二四七万五〇〇〇円

<2> 四〇〇〇万円×〇・九/九年=四〇〇万円

また、公租公課には、新木鈴子が負担している固定資産税があり、その額は四九万四七〇〇円であり、修繕費等のその他の経費は原告が負担しているので本件バッチャープラントに係る必要諸経費等の金額は、六九六万九七〇〇円(六四七万五〇〇〇円+四九万四七〇〇円)となる(以上について、原告は明らかに争わないので、自白したものとみなす。)。

6  適正賃料額

以上みたとおり、本件設備の適正賃料の金額は、本件設備の取得価額五一〇〇万円に期待利回り八パーセントを乗じて、必要諸経費等の金額六九六万九七〇〇円を加算した一一〇四万九七〇〇円となる。

よって、原告の本件賃借料二四〇〇万円のうち、右一一〇四万九七〇〇円を超える部分の金額一二九五万〇三〇〇円は、過大であるから、被告において否認することができる。

四  原告の新木鈴子に対する役員報酬の一部を損金に算入しないことは適法か(争点4)。

1  原告は、新木鈴子に対する当初役員報酬額として、一五六〇万円を申告したが、役員報酬とは、役員に対する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)で、賞与・退職給与以外のものをいうところ(法人税法三四条二項)、前記三で述べたとおり、本件設備に係る適正賃借料は一一〇四万九七〇〇円であるから、本件賃借料のうち適正賃料を超える一二九五万〇三〇〇円も新木鈴子に対する経済的利益の供与にほかならず、法人税法三四条二項により、新木鈴子に対する役員報酬であると認められる。よって、原告の取締役である新木鈴子に対する本件事業年度の役員報酬の額は、二八五五万〇三〇〇円であると認められる。

2  そこで、右役員報酬額が相当なものであるか判断する。

法人税法三四条一項は、役員報酬のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、損金の額に算入しない旨規定しているところ、これを受けて、法人税法施行令六九条一項は、右の政令で定める金額は、当該役員の職務の内容、当該法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、当該法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額である旨規定している。そこで、以下具体的に判断する。

(一) 新木鈴子の職務の内容

証拠(乙二)及び弁論の全趣旨によれば、新木鈴子は昭和五四年七月三一日までは原告の監査役として、また、その後は原告の取締役として原告の事務に従事してきたこと、新木鈴子は、コンクリートの製造関係についてはほとんど知識がないためこれには関与しておらず、原告の経理関係の仕事を主として担当し、振替伝票・入出金伝票の起票、現金出納帳・銀行帳の記帳、資金繰表の作成及び給与の計算とその入力を行っていたこと、原告には新木鈴子のほか、売上帳・仕入帳の記帳と請求書の作成など経理関係の仕事を担当する事務職のパートが二人いたこと、新木鈴子は、セメント販売及びパチンコ店の経営を行う訴外新木興業株式会社においても同様に経理の仕事を手掛けていたため、原告に専属して業務に従事していたものではないことがそれぞれ認められる。

(二) 原告の収益の状況

本件事業年度における原告の売上金額は別表二の「売上金額」欄記載のとおりであり、売上総利益の額は別表二の「売上総利益の額」欄記載のとおりである。これらの額を前事業年度と比較すると、売上金額は約九七・六パーセント、売上総利益の金額は約九七・一パーセントとなっている(以上の事実について、原告は明らかに争わないので、自白したものとみなす。)。

(三) 原告における使用人に対する給料の支給状況

本件事業年度における原告の使用人に対する給料の支給状況は、別表二の「使用人給与の額」欄記載のとおりであり、前事業年度の約九二・七パーセントとなっている。

(四) 類似法人における役員報酬の支給状況

(1) 証拠(乙三ないし五、証人木村晃英)によれば、被告は、原告の本件事業年度における新木鈴子に対する役員報酬のうち過大な部分が存在するか否か及びその金額を調査するため、原告の業種、業態、事業所の所在地、事業規模等を念頭におき、次の基準を満たす法人を抽出したことが認められる。

なお、右により抽出された類似法人(別表三において、イないしニで表示)は、被告である豊田税務署長及び岡崎税務署長において、名古屋国税局長発遣の「役員報酬支給状況調査書の提出について(一般通達)」(乙三)に基づき、同通達の類似法人業者の抽出基準に該当すると認められた者について機械的に抽出した者である。

(2) 類似同業者の抽出基準

a 豊田税務署及び岡崎税務署管内(調査部所管法人を含む。)において、日本産業分類(行政管理庁)の分類項目表による大分類F―製造業のうち、中分類二五―窯業・土石製品製造業のうち、小分類二五二―セメント・同製品製造業のうち、二五二二生コンクリート製造業を営む法人で、平成二年四月一日から平成三年三月三一日の間に終了する事業年度について、法人税法一二一条(青色申告)の承認を受けて、法人税の確定申告書を提出した法人

ただし、次のイからニに該当する者を除く。

イ 上記期間の中途において、設立、解散、休業、又は業種目等の変更並びに決算期等を変更した法人

ロ 更正処分又は決定処分を受けた法人のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立中又は訴訟中の法人

ハ この報告書の作成日現在において、法人税の調査が行われている法人

ニ 他の業種目を兼業している法人

b 当該事業年度における売上金額が、おおむね年額五億三〇〇万円を超え二〇億一四〇〇万円以下の範囲内にある法人

c 申告所得金額が欠損金額でない法人

(3) 右の抽出基準により選定された類似法人六社の役員報酬の支給状況等(乙四及び乙五)は別表三のとおりである。

(4) 別表三から次の各点を指摘することができる。

a 原告の本件事業年度の売上金額は類似法人の売上金額の平均の約一〇六・六パーセントである。

b 原告の本件事業年度の売上総利益の額は類似法人の売上総利益の額の約一二〇・二パーセントである。

c 原告の本件事業年度の個人換算所得は類似法人の個人換算所得の平均の約二〇〇・五パーセントである。

d 原告の本件事業年度の使用人給与の最高額は類似法人の使用人給与の最高額の平均の約一〇五・二パーセントである。

e 原告の本件事業年度の新木鈴子に対する役員報酬の額は類似法人のその他の役員報酬の額の平均の約二八六・〇パーセントである。

f 原告の本件事業年度の新木鈴子に対する役員報酬の額は類似法人のその他の役員報酬の額の最高額の約一五八・六パーセントである。

以上のように、類似法人と比較して、原告の新木鈴子に対する役員報酬の額は著しく高額であると認められる。

(5) 同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等について、類似法人の代表取締役以外の一人当たり役員報酬額の平均額を基に類似法人の売上金額、売上総利益の金額、個人換算所得及び使用人給与最高額の平均比率を加重平均して算出すると、別表四のとおり一三二八万九〇〇〇円となる。

(五) よって、右金額に、原告特有の事情もあり得ることも考慮すると、適正報酬額を一五六〇万円とすることは相当というべきであり、これを超える一二九五万〇三〇〇円を損金の額に算入されないとしている被告の行為は相当であると認められる。

五  本件更正処分の適法性

1  以上の事情を踏まえ、本件更正処分の適法性について判断する。

2  弁論の全趣旨によれば、原告の所得金額は、修正所得金額七五二五万七一八四円に、次の(一)の金額を加算し、(二)の金額を減算した金額である六八九五万四一八四円となるものと認められる。

(一) 加算すべき金額 一四〇九万七〇〇〇円

右金額は、次の(1)及び(2)の金額の合計額である。

(1) 新木鈴子の役員報酬の額のうち損金算入しない部分

一二九五万〇三〇〇円

(2) 事業税の過大認容額 一一四万六七〇〇円

前事業年度の平成三年一一月五日付けの法人税に係る減額更正処分により、本件事業年度における納めるべき事業税の額(以下「本件事業年度の事業税の額」という。)は八八九万二二〇〇円となり、原告が本件修正所得金額の計算上損金の額に算入した本件事業年度の事業税の額一〇〇三万八九〇〇円のうち、一一四万六七〇〇円が過大となるので、当該金額は損金の額に算入されない(法人税基本通達九―五―一及び九―五―二)。

(二) 減算すべき金額 二〇四〇万円

右金額は、本件事業年度の確定申告書記載の所得金額の計算において、原告が損金に算入していた賃借料の金額を、本件修正所得金額の計算に当たり、本件設備は、実質的に新木鈴子の所有物でなく、原告の所有にかかるものであるとして、損金の算入から除外した金額であるが、本件設備は、新木鈴子に帰属する資産であるので、新木鈴子に対して賃借料を支払うこと自体は正当であると認められるため、損金の額に加算する。

3  本件更正処分に係る所得金額六四二〇万三〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨て)は、右2で述べた原告の本件事業年度の所得金額六八九五万四〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨て)の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

六  賦課決定処分の適法性(争点5)

被告は、本件修正申告により原告が新たに納付すべきこととなった税額(本件更正処分により一部取消された後の金額)のうち五〇五万円を国税通則法六五条一項の規定に基づく過少申告加算税の基礎となる税額(ただし、同法一一八条三項の規定により、一万円未満の端数切捨て。)とし、これに一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額五〇万五〇〇〇円を算出し、これを賦課決定したものであり、原告が右税額の計算の基礎となった所得金額を過少に申告したことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があったとは認められないから、過少申告加算税に関する賦課決定処分は適法であると認められる。

七  結論

以上によれば、

1  本件訴えのうち、主位的請求として平成三年一一月五日付け重加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求める部分及び予備的請求として平成三年三月二九日付け重加算税の賦課決定処分(ただし、平成三年一一月五日付けで変更決定されたもの)の取消しを求める部分は、いずれも不適法な訴えであるから却下することとし、

2  その余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、

訴訟費用につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 佐藤哲治 裁判官 達野ゆき)

別表一

<省略>

別表二

<省略>

別表三

<省略>

別表四

類似法人の役員報酬の支給状況の計算表

<省略>

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